2005/6/21(火) 晴れ |
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各地でカブクワの便りが聞かれるようになって久しい。先週末の大阪でも、カブト・ノコ・コ・ヒラタ・スジ・ネブトを確認するなど、もうシーズンたけなわと云ったところだ。ところが俺は今年まだコクワしか確認していない。今シーズンから活動の場所を全く経験のない新しいフィールドに移動したこと、十分な下見をしてこなかったこと、数少ない有望なポイントが夏になると様相が一転し深いヤブに覆われてしまったことなど、言い訳を挙げればキリがないが、何よりフィールドに出ていないことが最大の原因だ。 諸所の事情が重なって、今年はなかなか夜間外出が難しい。チャンスがあれば思い切って仕事を切り上げて、野に出なければ!!! |
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と云うことで、今日は会社の後輩のキムシンを連れ出して千葉のポイントに繰り出すことにした。。。 | |||
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ここは例の横綱クヌギのあるポイント。思いの外ヤブが濃くなってしまっており、ヒトが近づくことを拒んでいるかのようだ。当然採集者の影はないが、逆に周囲からカブクワが飛翔してくることも困難そうだ。前回訪れたときはメクレから滲む樹液にコクワが挟まっているのみ。果たしてこの場所は本当に有望なのだろうか? 深いヤブに漕ぎ入ると、後に続くキムシンの顔から早くも笑顔が消えた。俺は俺で、期待を裏切られる予感から、次第に言葉数が少なくなっていった。。。 |
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ようやく辿り着いた横綱は、俺を待ちかねていたかのように既に樹液を滴らせていた。 フッ、かわいい奴だ。それほど俺を待ち望んでいるとは。。。 周囲には独特の発酵臭が漂う。久しぶりに嗅ぐ成熟した樹の甘い樹液の香りだ。俺は胸いっぱいにそれを吸い込むと、即座に脚立を登りはじめた。 ペンライトで丹念にめくれを探る。「いたっ!」 しかし掻き出すまでもなく、コクワとわかる個体のみ。ここは?ここも。。。 こうして複雑に入り組む全てのヒダで、同じ落胆が繰り返された。 |
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はたして、これだけのヤブを踏み超えてくるだけの価値がこの樹にはあるのだろうか?そんな疑いが脳裏をかすめる。もはや見切りをつけるべきではないのか。。。?初めてこの樹を見つけた時の興奮が今は恨めしい。ヒラタどころかオオクワさえも期待できると夢を見たあの日。。。 しかし俺はまた来てしまうに違いない。この樹の魔性から解き放たれるのは、一体いつの日のことなのだろうか。 |
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落胆しながら、いつもの谷津田に向かった。いつも新しい発見と感動を与えてくれるあのポイントだ。今日はどんな悦びを見つけることができるのだろうか。 | |||
暗闇に白い花火が浮かび上がった。今の季節、ヤマは白い花に彩られる。早春の花がみな明るい黄色であるのと対照的だ。写真はおそらくユキノシタ科のアカショウマ。端正な長円錐状の花序が夜目に鮮やかに映える。 | |||
こちらはおなじみのホタルブクロ。林道の脇一面に小さなつぼみをつけた群落があった。満開まであと10日ほどか?下向きに咲く淡紅紫色の花は、大振りな割にはとても上品な印象を受ける。 | |||
谷津田に続く山道の途中にある小結クヌギ。こちらもヤブの中だが、先程の横綱の周囲よりは数段条件が良い。まだ樹液が十分ではなく、コクワのみの確認だったが、今後に期待しよう。 | |||
クリの葉に止まるトホシテントウ。クリとクヌギの葉はよく似ているが、針状の鋸歯(葉の周囲のギザギザ)に葉緑体があって緑色なのがクリ。針から色が抜けているクヌギと見分けることが出来る。 | 草むらや樹々に光を当てると、思いのほか小さな生き物たちを見つけることができるものだ。 | ||
そのまま谷津田に下ってゆくと、まだホタルがちらほらと舞っているのが見える。前回あれほど鳴き交わしていたモリアオガエルの声は、もうほとんど聞こえない。なにげなく水中を覗き込むと。。。 | |||
やはりいた!ミズカマキリの幼体だ。 | スワッ!?タガメ??と興奮しかけたが、どうやらコオイムシ。しかもこれは脱皮後の抜け殻だ(^_^;) | ||
イトトンボのヤゴや、、、 | 背泳ぎでオールのような足を漕ぐマツモムシ。 | ||
赤褐色のヒルもいれば | もう尾が縮むのを待つばかりのカエル。 | ||
こちらは白い卵嚢(らんのう)を腹の下に抱えたまま水面をすべるように移動していたスジブトハシリグモ(と思われる) | 左のずんぐりした魚はホトケドジョウ。ゲンジボタルなどと生息域を同じにする、湧水のある流れの緩やかな細流に住まう日本固有種。彼らも、今減少の一途をたどる小さき者のひとりだ。 | ||
田んぼの水がとても澄んで透明なのに気付いただろうか。写真によっては水がないようにさえ思える。これを2週間前(6月5日)の右写真の藻が繁茂し濁った水と比べて欲しい。 4〜5月、水田に水を張ると、土中の無機塩類濃度が非常に高まり、初夏の日差しを浴びて植物プランクトンが爆発的に増殖する。それにつれて動物プランクトンや節足動物も増え、生まれたばかりの水中生物たちの幼体の重要なエサとなる。このプランクトンの爆発的な増殖現象を「スプリングブルーム」と呼んでいる。 |
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栄養塩類が消費されてスプリングブルームが終焉を迎える今頃の時期(6月下旬)になると水は透明度を取り戻し、成長した水生生物たちのエサは、水面に落ちてくる小さな昆虫に移り変わる。 水中の生き物たちの生活史は、ヒトの稲作と密接に連動し、巧みに共存しているのだと云えよう。 |
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また新たな命を見つけ、満ち足りた心のまま帰路についた。ヤマを下ること15分、車を停めた場所のすぐ近くの明るい外灯に、カブクワの飛来を期待して近づくと。。。先客がいた。 | |||
産卵を終えてやせ細ったモリアオガエルが、灯火にあつまる昆虫を待ち伏せ。 | |||
そして、アズマヒキガエルも、愛嬌のある顔立ちでのっしのっしと練り歩いていた。 | |||
カブクワに関して云えば、今日は全く収穫のない一日だった。カブトムシが我が物顔で跋扈する7月までの間に一種類でも多くのクワガタを確認したかったのだが、なかなか苦戦している。日中に少し周辺を廻り、有望なクヌギを最低でもあと数は見つけておくべきなのだが。。。
谷津田の昼の姿にも非常に魅かれるものがある。ヒラタだオオクワだと夢中になるよりも、豊かな里山に住まう住人の一人として、彼らをのんびりと眺めやるのでもいいのかなぁ?などと、少々弱気になりながら、ポツリポツリと降り始めた谷津田を後にした。 |
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