2005/7/14(木)  晴れ

この日の採集を、俺は一生忘れないだろう。事実をどのように伝えるべきかを思い悩んだ。逡巡し、決意して、またためらい。。。気が付くともうひと月余りの時間が経過している。
大袈裟で独りよがりな、思い込みばかりの杞憂なのかもしれない。それでもHP上での公開による万が一を恐れた。
しかしその一方で、どうしても伝えたいこともあった。自慢でも手柄話でもなく純粋に、人と自然とが共存する里山の奥深い魅力を知って欲しかった。それはHPを作った当初からの変わらぬ願いである。

そうして今日、ようやく採集記のアップと云う思い腰を上げることにした。

そう、この日俺はオオクワを手にしたんだ。。。

ポイント0507

後輩のキムシンが久しぶりにフィールドに出たいと云ってきた。なんて可愛い奴だ(^^)。先日水没させたデジカメの代わりにすぐさま購入した新機種の使い勝手を確かめたいと願っている俺の心を知っているのだろう。それならば、と云うことで、いつもの谷津田に繰り出すことにした。
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途中立ち寄ったガソリンスタンドで拾った小柄なカブ♀。オヤジさんの話では梅雨明け後が一番飛来する季節だとのことだ。 谷津田付近の駐車スペースで見つけたニイニイゼミ。
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明るい場所ならどこにでもいるヤブキリ キチョウの仲間
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早速現れたのはノコのペア。ノコのオスがメスを守ろうとする姿勢にはいつもながら感心する。この写真でも1枚目と2枚目のわずかな時間に、メスの上に覆いかぶさって身を挺している。そのくせ本当はとても臆病で、この撮影直後にオスだけ落下。きっとヤセ我慢してメスを守っているのだろう。本当に憎めない奴だ(^o^)
新しいデジカメは以前のものに比べ格段に性能が上がっているが、いかんせんそれに伴いサイズが大きくなっている。繰り出されるレンズも大きく、フラッシュを用いた近接撮影では写真下部にレンズの影が映り込んでしまう。またフラッシュの位置が高いために、メクレの下を撮影しようにも奥まで光が届かない。。。うぅ〜ン、大枚はたいたが、やばいかも。。。夜間のマクロ撮影と云う特殊な利用方法だけに、高機能であるよりも実際の使い勝手の方がずっと重要だ。。。痛恨。。。(-_-;)

などとボヤきながら、数多あるメクレのひとつに光を当てた瞬間、

??!!!!!

心臓が一気に爆発した!
、と同時に指先がピリピリと痺れ、首筋から背中一面の産毛が逆立つ!

オオクワだ!!

 

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頭の中はもうパニックだ。何をどうすれば良いのか考えがまとまらない。光を当てていては奥に逃げ込まれてしまうと考えて瞬間的にライトを消していた。でもその先の行動が何も浮かばない。写真も撮りたい。でもフラッシュで下に落ちてしまうかも知れない。躊躇しているこの瞬間にも、もうメクレの奥に逃げ込むか下に落ちているかも知れない。何を先にすればいいんだ?! 指先が震え、一人では何も出来ない。俺は押し殺した、でも昂揚した強い声でキムシンを呼んだ。奴も俺の声で非常事態に気付いたのだろう、緊張した声で何事かを尋ねる。「お、オオクワ!」「うそ!?」  俺は暗闇の中で馬鹿みたいに掻き出し棒を探したりカメラの電源を入れたりするばかりで何も行動していない。
俺の異常さに、キムシンが落ち着いた声で云った。「まず、押さえましょう」 
!その通りだ。まずは捕獲だ。一気に冷静さが戻ってきた。と同時にちょっと欲も出た。デジカメを向けて当てずっぽうにシャッターを半押しすると、フォーカスのための補助光が線条のある背中を照らし出した。「ピピッ」合焦の音、闇に響くシャッター音。一瞬のうちに、伸ばした指先が固く艶やかな個体を掴み採った。。。手の中にそれがいると確信した瞬間、膝がガクガクと震えているのに気付いた。

「採った!」「おぉ!」キムシンが言葉にならない声を上げた。
「オオクワ!」「凄い!」、「いたよ!」「いましたね!」、「凄いよ!」「凄いですね!」、「オオクワ!」(←わかってるって(^_^;) )「やりましたね」、「メスですか?」「イヤ、オス」、「見せてください」「ほら、ぅ、、、ちっちぇ〜!(馬鹿笑い)」

手のひらには、40mmにも満たない小歯のオオクワオスが乗っていた。こんな小さなオスははじめて見た。図鑑などには載っているが、ブリード個体でこんなサイズはまずない。菌糸ビンに入れて置くだけで60mmは超える。どうすればこんなに小さく羽化できるのか。。。写真を数枚写したが、どれもヒドイものばかり(^_^;)  余程興奮していたのだろう(^^ゞ

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その後、メクレと云うメクレを全てチェックしたが、メスを発見することは出来なかった。メスがいれば千葉県産のオオクワブリードの夢が叶うのだが。。。残念!

さてこのオスを連れて帰るべきなのか。。。。ちょっと悩んだが、すぐに決心した。

やっぱ、連れて帰えろ!(^^ゞ (しばらく楽しんでから、戻して上げるか考えよう(^_^;) )

ポイント0506

興奮冷めやらぬまま、谷津田への道を進んだ。何だか今日は家に帰る気がしない。。。(^_^;)
で、見つけたのがこのイモリ。これも大発見だ!千葉県のレッドデータブックでは、最重要保護生物A類にランクされているのだ。オオクワはその下の重要保護生物B類。何だか納得できない面もあるが、要は千葉でイモリが生息する環境が激減しているということだろう。
この個体の外にもう1頭、もっと大きなものもいた。そちらはかなり腹が張っており、産卵直前のメスだったようだ。いつまでもここで繁殖を続けて欲しいものだ。

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ミズカマキリや、ヤマアカガエルなどを楽しく観察し、帰路につくことにした。キムシンは明日は休暇をとっている。いいなぁ〜。こんな気持ちのまま、俺は明日の仕事に就けるのだろうか(^_^;)?
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帰路の灯下で拾ったタマムシ。久しぶりに見たが美しい! それに、ホントはどうでもいいヒメホシカメムシ。。。 要は真っ直ぐは帰らなかったと云うことだ(^^ゞ

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自宅に帰ってから記念撮影(^^)v。 採集場所とサイズを考え合わせるに、近頃話題の放虫ではないと判断した。この時点で午前4時を過ぎている。明日の仕事に差支える??? まぁ、正直云えばこの時点で仕事なんてどうでも良くなっているのだが。。。(^o^)

帰りの車中、キムシンが云った台詞がどうも癪に障る。「会社では絶対に見られない、アタフタとうろたえている○○もんさん(←俺の本名)の姿。いやぁ、いいものを見せてもらいました。もしかするとオオクワ見るよりも価値があるかも知れない(笑)」。。。悔しいけどその通り。オオクワって、特別な中でも更に特別な存在なんだ。それを身をもって実感させられる1日だった。

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俺が活動しているフィールドの数はけっして多くはない。千葉へ活動の拠点を移して間もないことも理由のひとつだが、何より、この素晴らしいフィールドに出会ったことが大きな理由だ。そこは必ずしもカブト・クワガタ採集にとって理想的な場所ではない。かつての薪炭林は放棄され、潜在自然植生である常緑広葉樹林への道を既に歩み始めている。もし効率良く大物を狙うのであれば、まず先に見切りをつけるべきポイントだろう。でもその場所に魅かれ、俺は通いつめている。。。

山間に残されたこの小さなフィールドは、その地形上の不利から開発の手を免れ、豊かな根垂水だけを頼りに素朴で勤勉なご夫婦によって守られてきた場所だ。何も必要以上に美化するつもりもセンチメンタルになるつもりもない。かつて畳数畳ほどの小さな田が50以上も並んでいたという棚田は、今や農業政策によって耕作機械が入ることの出来る規模の面積にまで整備されているし、田植え後の水田に除草剤を撒いている様子も目撃している。8月には農薬の空中散布さえ行われるのだと云う。しかしそれと同時に、土を掘り起こして自然の水路を廻らせ、畦をはじめ周囲を定期的に草刈りするなどの昔ながらの作業も守られている。

それはごく自然な、生産の場としての谷津田の姿だ。人が経済的な活動を行うための拠点。しかし必要以上の生産性や省力化を図りさえしなければ、ボランティアや篤志家の手による積極的な保護を待たずに、ゲンジボタルやヘイケボタル、イモリ・モリアオガエル・ニホンアカガエル・ツチガエルと云った、失われつつある小さな生き物たちを育むことができる。そしてその中に、オオクワガタさえもが入っていたと云うことに過ぎないのではないだろうか。

他の採集者がしているような真摯な努力を怠っている俺にはこんな大物を手にする資格はないのかも知れない。でも、生涯に一度くらいこんな奇跡があっても良いのではないだろうか。

「フィールド・オブ・ドリーム」 まさに夢のフィールドを、俺は偶然見つけたのかも知れない。。。

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