2005/10/23(日)  晴れ

10月も下旬にさしかかり、通勤途上で見かける埃まみれの都会の景色さえすっかり秋の様相を呈してきた。この季節の明るく晴れ渡った高い空は、本当に美しい。どこか新しいポイントを探したいものだ。。。と考えていた矢先、あるサイトで谷津田の生態環境をできる限り保全した工法を用いて「ほ場整備」を行ったモデル地区があることを知った。
もちろん、昔ながらの谷津田が昔ながらの方法で残されるのであればそれに越したことはない。しかし、あの天竺のさまなどを見るにつけ、高齢世帯が谷津田の環境を維持しつつ生産性を確保してゆくことの難しさは並大抵ではないとも感じる。雑木林と同じように、放置し、自然の手に委ねることで回復できる「自然」ではない以上、谷津田の環境を守るためには積極的に人がかかわってゆく必要がある。ノスタルジーに駆られて「ほ場整備」を闇雲に嘆くのではなく、新しい人と自然とのかかわりあい方を模索すべき時期なのかも知れない。
生態系保全工法とは一体どんなものなのか? 谷津田の未来にどう影響してゆくのか?? 久しぶりにキムシンと連れ立って、件の「モデルほ場」に向かうことにした。

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千葉県某所

キムシンを車で拾い、朝9時半に現地周辺に到着。予想通り、澄んだ空気に明るい日差しがいっぱいの、素晴らしい好天だ。今日はどんな生き物たちと出会うことができるのだろうか。。。
いつもはさして気にも留めないのだが、さすがにこの美しさに今日は何度も空を仰いだ。西の空には傾きつつある月が見える。この齢の月には『更待月(ふけまち)』と云う美しい名がついている。

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(余談)月の呼び名のお話〜
月が昇る時刻は毎日少しづつ(30分〜1時間程)遅くなる。
日没と同時に昇ってくる、誰もが知る十五夜(じゅうごや)。その翌日、それより遅い時刻にためらう(いざよう)ように遠慮がちに昇る十六夜(いざよい)、さらにその翌日、立って待つうちに昇り来る十七夜(立待月=たちまち)、疲れて座りながら待つ十八夜(居待月=いまち)、寝て待つうちにようやく現れる十九夜(寝待月=ねまち)、さらに夜が更けてからようやく姿を見せる二十夜(更待月=ふけまち)。。。
。。。日本人っていいなぁ、と心から思う。。。

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今の季節、雑木林の林縁でよく見かけるのがこのヤマノイモのムカゴ。絡みついたツルに直径1cmほどの実のようなものが沢山ついているが、これは実ではなく茎の葉腋にある芽に栄養がたまって肥大化したもの。これくらいのサイズになると、採取しようとツルを手繰り寄せただけで一斉に落ちてしまう。下に傘などを広げてツルを揺するといくらでも採れる。ご飯に炊き込んでムカゴ飯にするも好し、塩茹ででつまむも好し(^^)v  イモに劣らぬクセのない風味とねっとりとした食感は、手軽に採取できる秋の味覚の中でも秀逸だ。
ちなみに生でそのまま口にするのが食感を含めいちばん美味かった。ネットで調べると「生食可」とあるので大丈夫だと思うが、俺とおんなじに何食べても大丈夫な人だけ、その場でお試しあれ(^O^)!
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秋の里山で最も美しく紅葉するひとつ、ハゼにも房状の実が沢山ついていた。かつてはこの実からロウを採取していたという。 こちらは花期を少しすぎたハギ。日当たりの良い林縁の斜面は、こんな風に里の植物でいっぱいだ。
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何やら刺々しく武装したこの植物は、春の山菜「タラの芽」で名高いタラノキ。小さな葉が並んでいるように思うが、並んでいるのは小葉と呼ばれる「葉の一部分」で、実は右の写真に写っている小葉のほぼ全てで1枚の巨大な葉らしい。2回羽状複葉と呼ばれる木では珍しい付き方だそうだ。

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ヤマハッカ。デジカメは紫の発色が難しい。本当はもっと赤味の強い赤紫色なのだが。。。 このきれいな花は、意外にもセイタカアワダチソウ。放置され荒れて乾燥化した田に入り込んでいた。
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051023_058.jpg (29654 バイト) 谷津の奥、暗く湿った場所で見かけたメナモミ。
花の周囲に粘つく毛の生えた総苞片(ガクのようなもの)が5つあり、ベタベタと服に付いてくる。
センダングサやイノコズチ、オナモミなどと同じような「ひっつき虫」のひとつと云えるだろう。

オナモミのように硬く刺々しく付くのではなく、やさしくベタベタ付いてくる様子を女性的と捉えて命名されたものか???(^^)

それはそれで、、、ちょっといい感じ?!(^^ゞ
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谷津田の畦にダイズが植えられているのを見かけた。これは『畦豆(アゼマメ)』と呼ばれる昔ながらの習慣のようだ。マメ科を植えることで期待される窒素同化までを意識していたかは定かでないが、ダイズは背丈が低いため田んぼを日陰にすることもなく、また保存のきく栄養価の高い食品となる。わずかな面積も無駄にしない先人の智恵と工夫のひとつなのだろう。
ところで、今日は冬眠前に食いだめでもしようというのか、やけにアカガエルを見かける機会が多かった。千葉の谷津田にはニホンアカガエルとヤマアカガエルの2種が見られるが、最近は比較的遠目でも両者の見分けがつくようになってきた。過去のフィールドノートでは○○のひとつ覚え(^^ゞのようにいつも上から見た背側線にばかり注目してきたが、今日はもうひとつの特徴であるノドから腹にかけてを比較してみようと考え、ちょっと失礼して見せてもらった
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上はヤマアカガエル。ノドから腹にかけて黒い斑点が目立つ。またニホンアカガエルより体色の変化が大きいようで、赤褐色に近いものから、この個体のように背面が暗くほとんど黒褐色にみえるものまでがいる。
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こちらがニホンアカガエル。上と違ってノド・腹に黒斑は見られない。名前の由来にもなった腹側の赤味がわかるだろうか?来たるべき冬を向かえ?プクプクと丸く膨れたお腹を披露する姿がなんとも可愛らしい。

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この時、畦の草むらからカエルの悲鳴が聞こえてきた。「悲鳴」とは大袈裟な(^^ゞ と思うかもしれないが、そうとしか表現しようのない低く太い、苦しげな声が周囲に響く。

「カエルがやられてる!」

突然そんな訳のわからないことを叫ばれて同行のキムシンも驚いたろう(^_^;) とにかく2人で声のする方向に駆けつけ、繁った草の中に目を凝らすと。。。やはり!
「やられて」いたのはトウキョウダルマガエル、やっていた?のは普段は臆病そうに逃げ隠ればかりしているヤマカガシだ。

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鋭い眼光をたたえ大きく見開いた目、美しく精緻なウロコに覆われた全身、時に身をくねらせ、時に一直線に身を固め、鮮やかな装いの下に秘めた筋肉の緊張を露わに伝えるしなやかな体。ヘビを「美しい」と感じることは、はたして奇異なことなのだろうか?
防戦するカエルも身を膨らませ、強い脚の跳力で精一杯の抵抗を図る。草の根に潜り込み、引き出され、また潜り込み、高く掲げられ、、、やがてアゴの奥から注ぎ込まれる溶血性の毒素が、薄い皮膚の下に鮮血をほとばしり出させる。。。命を賭した攻防、これほどの野生を、俺はいまだかつて目にしたことがない。
ただただ、カメラを手に固唾を呑んで見守るしかなかった。
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ここをクリックすると、この時撮影した一連の写真を、大きな画像のスライドショーでご覧いただけます。

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気が付けば、ヘビやカエルばかりではない。のどかに見える秋空の下では、やがて来る厳しい冬を迎えるために全ての生き物たちが命の営みに励んでいる。。。
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ヒメジョオンとベニシジミ アキノタムラソウとスジグロシロチョウ
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キチョウ キタテハ

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さて、予想以上に楽しい散策に前置きばかりが長くなったが、ようやく今日の目的地付近に到着した。谷津の入り口には「生態系保全工法区域」の誇らしげな?看板が。。。まだまだ実験的な手法も多いのだろうが、周辺の森林と水田を連続させるための工夫がさまざまなされ、それらが施工前後の写真とともに説明されていた。
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その工夫のひとつである脱出用スロープ。圃場整備に伴って段差の大きくなった周辺の水路のところどころに、壊れた桟橋のような木製の斜面が作られていた。たったこれだけのことで救われる命が、確かにあるのだ。水路はU字溝などを用いていないため、クレソンをはじめとした水草がいっぱいに繁っていた。
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こちらは砕石によって3面護岸を施した用水路。こうしてみると人工的な印象は否めないが、確かに砕石ブロックの隙間には多くの植物が根を張り始めていた。また魚類をはじめとした多くの水生生物に隠れ家や産卵場所を提供してくれそうにも思える。数年後、ここが植物に覆われた水路に戻り、多種多様の命を育むようになっていてくれるとことを期待したい。
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暗い林床で白くひときわ目立つ花穂を垂れていたのはサラシナショウマ。 その隣には清楚なシロヨメナと吸蜜に集まる昆虫を待ち構えるスジアカハシリグモ
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セイタカアワダチソウは養蜂家にとって貴重な蜜源だと云う。脚に花粉団子をつけた。。。これはなにバチ?だろ(^_^;) 抜けるような青い空に、赤い果皮と黒い種子が一際鮮やかなゴンズイ。
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これはヨメナで良しとしよう。キクの同定は図鑑だけじゃ絶対無理。誰か植物に詳しい人に連れて行ってもらって教えてもらえたらなぁ〜 サンショウ(山椒)が、明るい林縁で可愛らしい赤い実をつけていた。
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秋にブドウのような果実を付けるツル植物のうち、左は覚えておこう。赤や青、紫など色とりどりの食べられない実(ノブドウミタマバエによる虫こぶ)を鮮やかにつけるのがノブドウ。
右の黒いのがエビヅル。ヤマブドウとの見分けが難しいが、根拠なく勘だけでエビヅルとした(^_^;)
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この日はヘビの抜け殻も再三見かけた。よく見ると目の上の膜まで脱皮しているのには驚いた。「ヘビの抜け殻の欠片を持っていると金運がつく」と云うキムシンの言葉を信じて、きれいな模様の残ったヤマカガシの皮を1匹分丸ごといただいてきた(^^ゞ こちらはヤマカガシより乾燥した場所を好むシマヘビ。赤い目が毒々しいが、いたって大人しくて可愛らしいヘビだ。
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言い訳がましく何でも難しがれば良いと云うものではないが(^_^;)、アザミの同定もほとんど出来ない。
左は総苞片が短く ほとんど反り返らないことなどから、アズマヤマアザミと判断。
右はノハラアザミ。フラッシュを焚くと本来の紅紫色が再現できないので、手ブレしないように頑張って写した。

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書籍やホームページなどで、谷津田から消えつつある植物の代表として述べられることの多い「タコノアシ」(環境省RDB−絶滅危惧II類(VU))が、わずかに残されているのを発見することが出来た。初見だが、左上の写真で解る通りに、イボのついた足のような花序の様子と印象的な名前が見事に一致しているためにすぐにそれとわかった。

湿地性の多年生植物で、生育域の開発や遷移の進行にともなう乾燥化などによってその数を減らしていると云う。
写真からお分かりかもしれないが、この撮影場所も既にかなり乾燥化が進んだ放棄田の一部だ。

秋が深まると全身が紅く染まり、群生地では一面の草もみじになると云う。そんなシーンを一度でいい、目にして見たいものだ。

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秋の日はつるべ落とし。。。気が付けば夕日がススキの穂を黄金色に染めていた。美しい。切なくなるほどの美しさだ。
しかし、東京に生まれ育った俺にとってさえ、これらはほんの数十年前までごくありふれた風景だった。

この美しさと引き換えに得られる豊かさなどいらない、とつぶやけば、それもまた都会の利便性を享受する者の驕りなのかも知れないけれど。。。

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