生態からみた雑木林 陽樹とは?陰樹とは? 光合成と呼吸 広葉樹?針葉樹? 落葉樹?常緑樹?
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【 遷移(2)〜草本から樹木たちの争いへ〜 】

溶岩に覆われた大地から出発した植物たちの移り変わり(遷移)は、まずは水をめぐる闘いから始まりました。土壌がほどんと形成されていない大地は保水性が極めて乏しく、著しい乾燥に耐える仕組みを持つ植物のみが生きることを許されるからです。(地衣類・蘚苔類 ⇒ 1、2年生草本)

やがて風化や腐食の堆積によって土壌が生み出されると、競争はもっぱら光を巡る争いに移り変わります。他よりも早く生長し、葉を広げ、光を独占できる植物たちが隆盛を極めることになるのです。(1、2年生草本 ⇒ 多年生草本)

しかし、草花(=草本)たちがどんなに生長を競っても、樹木(=木本)の台頭を前にしては、なす術がありません。樹木の生長は遅々としてはいても、一旦生長を遂げた後は、草本のはるか上方に葉を広げ、命の糧である光を独占するようになるからです。


これから先、樹木の競争も光をめぐるものが中心となります。そんな中、真っ先に存在感を示すのは、大馬力でスピードを誇る陽樹の仲間たちです。

土壌が形成されたとはいえ、未だ大木を支えるに足る土壌や養分、保水力を充分に持たない大地は、依然、木本類にとっては厳しい環境です。また、鳥や動物たちが憩う森林が生まれる以前のこと。持ち込まれる種子の種類も、限られたものとならざるを得ないでしょう。

この厳しい条件の中、数ある陽樹の中でも、特に乾燥と貧栄養に耐え、風による種子の散布という大きな移動力を持つ先駆樹パイオニアツリー)が、その名の通り開拓者よろしく森林の第一歩を歩み始めるのです。

陽樹の森のもとでは、大きな環境の変化がもたらされます。
前述の通りその多くが落葉樹であることから、森に大量の落ち葉を積もらせ、やせた土壌を肥沃な大地に変え、夏の直射日光を遮り、外気の影響を受けにくい安定した気温と湿度を保った環境が整えられてゆきます。

冬枯れの季節には暖かな陽射しが林床まで届き、虫や鳥や昆虫たちのゆりかごとなり、早春の明るい空気の中では、短い季節を謳歌する小さく儚い命たちが可憐な花を咲かせることでしょう。
鳥や動物たちが集うことで、その糞などを通じて果実を持つ植物など数多くの種子がもたらされることになります。

こうして、次第次第に多種多様な動植物たちが暮らす、豊かで明るい森が生み出されるのです。


しかし、どんな繁栄も大きな流れの一断面にすぎないことは世の習い。
美しい陽樹の森とて例外ではありません。

明るい林床とはいえ、植物の生長に最も大切な夏の間、光は繁茂する樹木の葉に遮られるこちになります。カブトムシやクワガタをはじめとした多くの昆虫たちにとって快適な、この暗く涼しい環境は陽樹の芽生えにとって厳しいものといえます。

そう、幼木の生長に多くの光を必要とする陽樹は、自らの足下では次の世代を育むことが出来ないのです。

そして薄暗い林床で虎視眈々と天下を狙うのは、陰樹の幼木たち。
彼らは少ない光量に耐えながら、ゆっくりと、でも確実にその勢力を強めて行きます。繁栄を極めた陽樹林が老齢を迎える頃には、林床に控えるのは陰樹の若木ばかりとなり、やがて陽樹林は陰樹の森へと変遷してゆくことになるでしょう。

陰樹の多くは常緑樹であったことを覚えているでしょうか?季節によらず葉を繁らせている陰樹の森の林床は、さらに暗いものとなります。そして、ここで育つことができるのは陰樹の仲間たちだけ。
草本類の繁栄以来、はるか続いていた「光を奪い合う」熾烈な争いは、いつしか「乏しい光に耐える」者に最後の軍配を上げたのです。

長かった植物群落の変遷(=遷移)も、ここに一定の結末を迎えることになります。陰樹の森は陰樹の芽生えを育み、繰り返し陰樹の森を再生産するでしょう。山火事や大規模な風水害といった撹乱がなければ、この状態は極めて長期間続くことになるはずです。

この遷移の最終段階は極相林(きょくそうりん=クライマックス)と呼ばれ、いわゆる「原生林」とほぼ同じ意味で用いられます。構成する樹種は気候により異なるものの、冷涼な気候では落葉樹であるブナ、温暖な気候の下では常緑樹であるシイ・カシ・タブなど、常に耐陰性の強い植物がその代表となっています。



このように関東以西にある落葉広葉樹主体の陽樹林(=雑木林)は、放置されたままではやがて暗いシイ・カシ・タブの森林へと遷移してゆく運命にあります。

それでは何故、日本の各地に雑木林が残されているのでしょうか?いよいよ最後の章でその謎を解き、雑木林の持つ意味について考えてみることにしましょう。

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